成年後見制度を利用する事例と注意点について
山田 愼一
相続の相談件数は業界でもトップクラスの年間1800件のグリーン司法書士法人の代表司法書士。
保有資格:司法書士/行政書士/家族信託専門士/M&Aシニアエキスパート
こちらのページでは成年後見制度の利用が必要になる事例と、成年後見制度を使うにあたっての注意事項について解説させていただきます。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を保護し、支援していくための制度です。
成年後見制度について相続手続きでも、相続人の中に認知症の方がいる場合などで成年後見制度を利用して手続きを進める事があります。
成年後見制度のメリットとデメリットを理解して、ご自身の意向に沿うように制度を活用しましょう。
司法書士が解説!成年後見制度を使う5つの事例と注意点
成年後見制度がよく利用されるのは?
成年後見制度が一番多く利用されるのは、不動産を売りたい場合です。
その中でも、老人ホームに入居したことで住んでいた家が空き家になり売却したいという事例が多いです。
お子さんも自分で家を持たれていると、老人ホームに入居したあとの家には誰も住まず、結果として空き家となってしまうのです。
住んでいた家が空き家になった場合、施設に入ってしばらくするとご近所から庭の枝が落ちてきたなどの注意を受けることがあったり、たまに空気の入れ替えをしに行かないといけなかったりします。
老人ホームなどの施設で過ごされる方が年々多くなってきていますし、親と同居されているケースは少数派なので、このような状況はよくあるケースなのです。
そして介護施設に入るには結構お金がかかるので、介護施設の費用だったり、その他の様々な費用を捻出するために家を売却したいというニーズがあります。
しかし日本では不動産は重要な財産だと思われており、売買契約が非常に厳格なため、重度の認知症の方だと不動産の売買契約をするのは難しいのです。
(※重度の認知症の定義は自分で自分のことも分からないくらいのレベル)
通常の不動産売却も簡単に行えるものではなく様々な手続きがありますが、重度の認知症の場合は手続きを代わりに行ってもらう人を選ばないといけないことになるので成年後見制度を利用するのです。
では事例で詳しく説明いたします。
成年後見制度を利用する事例
成年後見制度を使わなければいけないような事例を5つご紹介しますので、ご自身の状況と比べて参考にしていただければと思います。
成年後見制度事例1/不動産を売却したい
Aさん(母/80歳)は長期入院しており退院の目処はついたけれど自宅には戻れませんという状況です。
退院後、そのまま介護施設に入居することになり、今後自宅に戻れる可能性はないのでYさん(娘/55歳)は自宅を売却してAさんの介護費用に充てようと考えています。
しかし、不動産会社に相談しに行き、事情を伝えたところ、成年後見人を選んでいただかないと売却できませんと言われました。
その後、家庭裁判所に申し立てをして成年後見人を選んでもらい、結果として売却できたのですが、非常に時間がかかりました。
特に都市部(東京や大阪)で成年後見人を選んでもらう手続きを家庭裁判所に申し立てると、かなり時間がかかります。
かなりとはどれぐらいかというと、早くても3ヶ月ぐらいかかり、長いと半年かかりますし、場合によっては1年近くかかることもあります。
そして、売却のために成年後見制度を使った場合、その時だけで成年後見人を終われるかというと、それはできませんのでご注意ください!
成年後見制度は一旦始まったら、ほぼ一生成年後見制度を使うということになります。
重度の認知症の方を回復させる事は難しく、高齢者や一旦意思能力がない状態になった方には最後の時まで成年後見人が必要となるからです。
不動産を売るためだけで成年後見制度を利用され、後で成年後見制度をやめたいと言われる方は多いのですが、一度始まると成年後見制度の利用をやめることはできません。利用する際には気を付けましょう。
成年後見制度事例2/銀行の手続きをしたい
Aさん(母/85歳)はXさん(長男/60歳)ら家族の支えで今まで自宅療養していましたが、来月から特別養護老人ホームに入居することになりました。
入居一時金もかかるので、Xさん(長男/60歳)はAさん(母/85歳)の定期預金を解約しようと銀行に行きましたが、出来ませんと言われてしまいました。
寝たきりで話もできない状態であることを伝えましたが、成年後見を申し立ててくださいと言われてしまい、定期預金を解約することができませんでした。
このような場合の選択肢は、成年後見制度を使わざるを得ないか、代わりに親族が立て替えておくかになります。
少しずつこういう場合の銀行側の運用も変わっていくとは思われますが、このような状況になると、ご家族の負担が大きいので事前に銀行に届出しておけばお金をおろせる可能性があります。事前の対策をしておきましょう。
しかし、全ての金融機関が対応してるわけではないので、もし将来的にこのような状況が想定されるのであれば、事前に手を打っておかないと困ったこともでてきますし、お金をおろすためだけに成年後見制度を使うというのは、他の負担の方が大きいのでおすすめしません。
成年後見制度事例3/遺産分割(相続)が発生した
この事例も結構多く、遺産分割協議という遺産の分け方の話し合いをするにあたって成年後見制度を利用しないといけない事例です。
Bさん(夫)が89歳で先月お亡くなりになり、奥さんのAさん(88歳)、長男(62歳)と長女(62歳)というご家族構成です。
AさんはBさんが亡くなったことも理解できないような状態で、Bさんの遺産について不動産など色々名義変更をしないといけないので司法書士事務所に相談しに行きました。
すると、Aさんの状態的に遺産分割協議をするには成年後見人を選ばないとできませんと言われました。
遺産分割協議をしないことには相続手続きを行えないので、成年後見人を選ばざるを得ません。もしくは法定相続分というものがあり、それだけなら成年後見制度を利用せずに手続きできる部分もあります。
ですが、遺産分割の話し合いをするにあたって基本的には成年後見人を選ぶことが必要になるケースが多いです。
そしてこのケースも事前に準備しておけば成年後見制度を使わずに済む場合もあります。
成年後見制度は良い制度ですが、手間な部分も結構あるので、使わずに済む場合には他の方法で対応することをおすすめします。
成年後見制度事例4/詐欺被害が心配な場合
親が高齢で詐欺被害にあわないか心配な場合に、成年後見制度を利用するのは、非常に有用に活用できるケースです。
親と離れて暮らしていると詐欺被害にあわないか心配になりますし、一人で暮らされている場合だと特に心配ですよね。
そのような時には、成年後見の「補助」という段階を活用することをおすすめいたします。
成年後見と一口に言ってもレベルがあり、一番下のレベルの「補助」は通常の日常的なことは自分でできるけれど一部自分だけでは難しいことがあり、人の補佐が必要なレベルの方を手助けする成年後見制度の段階です。
続いては詐欺被害にあわないか心配なため、成年後見制度の「補助」レベルを活用した事例をご紹介していきます。
Yさん(長女/50歳)が実家に帰ると見慣れない羽毛布団がありました。
Aさん(母/75歳)によると、電話があって買ってしまったとのことだったので詳しく話を聞くと、その羽毛布団が100万円もしたというのでYさん(長女/50歳)は驚きました。
高齢者に押し売りをする詐欺の被害にあったのだとわかり、今後も同じような詐欺にあわないかYさん(長女/50歳)は心配になりました。
そこで成年後見人の制度の取消権というものを使うことを考えました。
成年後見人がいる方が誰かと契約した場合は、後で成年後見人がその契約を取り消すことができるという権利です。
今回の事例のように詐欺被害にあってしまう可能性がある方などには、成年後見制度の取消権は非常に有効に使えるので、心配な場合は検討してみてください。
成年後見制度事例5/家族による使い込みが疑われる場合
このケースも多く、大阪相続相談所でも成年後見制度をおすすめして使う場合があります。
ご家族間、特に兄弟間でどちらかが親と一緒に住んでいたり、親の財産管理をしたりしている場合に、兄弟間の仲が悪いと使い込んでいるんじゃないかという疑念がでてきます。
疑われている方は、疑われている方で『ちゃんとやっているのに何で疑うんだ!』となります。
このような場合の、成年後見制度の活用事例についてお話させていただきます。
Aさん(母/75歳)とZさん(長男/52歳)が同居を15年ほどしており、Aさん(母/75歳)は最近認知症を発症し始めたため妹のYさん(長女/50歳)が兄のZさん(長男/52歳)に通帳を見せて欲しいと言ったが見せてくれないことで揉めていました。
Zさん(長男/52歳)はギャンブル好きで、それがきっかけで奥さんと離婚してしまった過去があるので、Yさん(長女/50歳)はAさん(母/75歳)のお金を使い込まれていないか心配しています。このような場合は成年後見制度をぜひ利用しましょう。
成年後見制度を利用すると家庭裁判所の管理下で財産管理を行う事になり、年に1回必ず家庭裁判所に財産の状況を報告することになります。
なので、財産の状況が明確になるので使い込みの疑いがはれるということです。
これは疑われる側と疑う側の両方の立場で良い面があります。
大阪相続相談所には両方の立場の方からご相談をいただくので、どちらの気持ちもわかります。
Zさん(長男/52歳)の立場の方は疑われがちですが、結構ちゃんとされている方が多く、ちゃんとやってるのに他の兄弟から何かおかしいんじゃないかと言われるので、どうしたらいいですかとご相談にこられます。
そういう場合に「成年後見制度を利用すると全部裁判所の管理下で明るみになるので相手の疑念ははれるんじゃないですか」と成年後見制度を活用する方法をご提案させていただくことがあります。
Yさん(長女/50歳)の立場の方は使い込まれていないか心配で心配でということでご相談に来られるので、「成年後見制度であれば家庭裁判所の管理下なので使い込みをしていないか把握できますよ」とご提案させていただきます。
両方の立場の方からご相談を受けて思うのは、皆さん結構ちゃんとされているということです。
親の面倒をちゃんとみているのに疑われるのは嫌ですし、疑う方も嫌ですよね。
なので成年後見制度を活用して明朗会計にすることでお互い疑いあうことなく関係が悪化するのを防げればと思います。
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成年後見制度の注意点
次に、成年後見制度を利用する時に知っておいた方が良い注意点についてお話します。
成年後見制度の注意点1/絶対になれる保証はない
まず1つ目の注意点は、成年後見を申し立てして、お子さんが成年後見人になろうと思っても絶対に成年後見人になれる保証はないという点です。
これは大注意なので気を付けてください!
自分が成年後見人になろうとして申し立てた結果、司法書士や弁護士が選ばれてしまうケースが実は多いです。
成年後見人は一旦選ばれると、途中で変えたり、やめることができませんので慎重に行わないといけません。
基本的に一定の財産額(大体1,000万円以上)がある場合は、司法書士や弁護士が成年後見人になる可能性が高いということを覚えておいていただければと思います。
成年後見制度の注意点2/専門家が成年後見人になると報酬が発生
2つ目の注意点は、1つ目の注意点と連動しており、司法書士や弁護士が成年後見人になると報酬を支払う必要があるという点です。
その報酬は、ご本人さんの財産から支払う必要になるのでご注意ください。
仮に報酬金額が月に3万円だとすると、年に36万円、10年間で360万円もの費用を専門家に支払うことになります。
なので不動産を売却するためだけに成年後見制度を利用し、成年後見人に専門家が選ばれると売却して介護費用を捻出したかったのに報酬を支払う必要があり、結果として割に合わないことになる可能性があるのです。
成年後見制度ではなく、家族信託など他の対策で回避できることもありますので、是非成年後見制度以外で対応できるかをご検討されることをおすすめします。
成年後見制度の注意点3/途中でやめることはできない
3つ目の注意点は、何度かお話ししましたが、成年後見制度は始まると途中でやめることができないという点です。
若い人で回復した場合などの例外はあるかもしれませんが、基本的にはお亡くなりになるまでずっと続くことになります。
成年後見制度の注意点4/家庭裁判所への報告、手続きが毎年ある
4つ目の注意点は、家庭裁判所への報告・手続きを毎年行う必要があり結構な手間がかかる点です。
家庭裁判所に提出を求められるものは、正式な書式で用意する必要があるので、ご自身でご準備するとなると結構大変です。
しかも、家庭裁判所は基本的に平日しか開いていないので、お仕事をお休みする必要があるので、面倒くさいとなる方が非常に多いのです。
こういう面倒な部分があることを、成年後見制度を利用する時は注意しましょう。
成年後見制度の注意点5/なんでもできるわけではない
最後の注意点は、成年後見人は何でもできるわけではないということです。
例えば、その人の財産を使って株に投資することはできませんし、不動産の売却は裁判所の許可がないとできません。
不動産を売却するために成年後見人になる必要があるとお話しましたが、成年後見人でも裁判所の許可を得ないと不動産を売ることはできないので、裁判所の許可がおりず売れないという可能性もありますし、不必要な不動産の売却はできないので相続税対策などは絶対に出来ません。
資産をお持ちの方は、非常にご注意いただきたい点です。
ご質問やご不明な点などがございましたら、お気軽にメール、twitter、facebook等でお問い合わせいただけたらと思います。
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グリーン司法書士法人代表の山田愼一が、成年後見制度を利用する事例と注意点についてお話させていただいております。
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