相続放棄は生前にできません!相続専門の司法書士が理由と対策を解説
山田 愼一
相続の相談件数は業界でもトップクラスの年間1800件のグリーン司法書士法人の代表司法書士。
保有資格:司法書士/行政書士/家族信託専門士/M&Aシニアエキスパート
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生前の相続放棄はできない
結論からお話すると、生前に相続放棄はできません。
生前の相続放棄ができない理由
ではなぜ生前に相続放棄ができないのかというと、相続放棄を生前に行うことは法律で認められていないからです。そのため家庭裁判所も受け付けてくれません。
もし「相続しない」と念書をもらっても、法令で定められた相続放棄ではないので、相続放棄としての効力を発揮しないということです。
なので、他の相続人が被相続人(相続される人、相続の開始にあたっては亡くなった人)の死後に相続権を主張してこられた場合は、念書があっても反論することはできず、法的に認められません。
相続放棄を生前にしてもらいたい場合の5つの対策
その1.遺言書を作成する
難易度レベル1・効果レベル3
相続人の中でも、特定の人には相続をさせたくないという場合は、遺言書を作成するといいでしょう。
遺言書で、相続させたくない相続人以外に渡してしまえばいいからです。
しかし、特定の相続人以外に相続させる旨を記載した遺言書を作成するだけでは対策としては不十分です。
それは遺留分というものがあるからです。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上保証された一定の割合の相続財産のことで、遺言に相続させたくない旨を記載しても遺留分を主張されたら、他の相続人は金銭で精算する必要があるのです。
生前に相続放棄の対策として遺言書を作成する場合は、遺言書の作成と併せて遺留分の放棄をしてもらうことをおすすめしますが、生前に遺留分の放棄を行うことは難しい傾向にあります。
遺言書については、下記ページで作成方法や種類、費用などを説明しております。
遺言書作成についてその2.生前贈与をする
難易度レベル2・効果レベル3
相続財産を渡したくない相続人がいる場合は生前贈与を活用する方法もあります。
遺産を与えたくない相続人以外の相続人に、財産をあらかじめ生前贈与しておくという方法です。
ただし、注意いただきたいのは上記の遺言書作成と同じく遺留分です。
なぜかというと、遺留分は
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額(民法1043条)
で計算するので、被相続人が生前に他の相続人に贈与した財産も遺留分の計算対象に含まれる可能性があるからです。
しかし生前贈与したもの全てが含まれるわけではないので、遺留分の計算対象の範囲に含まれないように確認しながら、何を生前贈与するか、どのような生前贈与の方法を選択するべきかを検討しながら生前贈与を行いましょう。
また、贈与税が高い傾向にあり、上手に活用する必要があるので、難易度が遺言書作成よりも高くなります。
その3.家族信託をする
難易度レベル4・効果レベル5
家族信託とは、老後の介護や認知症を発症した時などに備えて、信頼できる家族に自分が保有する不動産や預貯金などの財産を管理・処分する権限を与えておく方法です。
信頼できる家族に権限を託しておくことで、自分の意向に沿った相続が行われ、相続財産を渡したくない相続人への対応も任せることができます。
家族信託については、下記ページでどういうものか、メリットデメリットなどを説明しております。
家族信託とは?その4.遺留分放棄をしてもらう
難易度レベル6・効果レベル2
他の対策にも書いてありますが、相続人には遺留分を主張する権利があり、遺留分を主張されると法律で決められた範囲の相続財産を渡すことになります。
では、遺留分を請求されないための対策はというと、遺留分の放棄をしてもらうことです。
遺留分を有する相続人は、被相続人の生存中に、家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ遺留分を放棄することができます。(民法1049条)
しかし、遺留分は重要な権利なので、遺留分放棄を家庭裁判所に申し立てても簡単に許可してもらえるものではありません。
遺留分の放棄を迫るなどの不当な行為が行われる可能性があるからです。
そのため裁判所に、遺留分を放棄する合理的な理由を説明する必要があります。
そしてご注意いただきたいのが、「遺留分の放棄」であって「相続の放棄」はまた別という点です。
その5.推定相続人の廃除
難易度レベル10・効果レベル10
5つ目の方法は、家庭裁判所に推定相続人の廃除を申し立てる方法です。
推定相続人の廃除とは、被相続人が家庭裁判所に申し立てて、特定の相続人の相続権をなくす制度のことです。
被相続人が、その相続人から虐待や重大な侮辱などを受けた場合などに、それを理由に申し立てることがあります。
家庭裁判所が推定相続人の廃除を認めると、その相続人は相続権を失います。
しかし、相続権を失わせるという強い効力を持っているので、廃除を認めるかは慎重に判断され、認められるケースはあまり多くはありません。
なのでご紹介した対策の中では、効果が一番ありますが難易度が一番高いです。
相続欠格について
相続欠格とは、相続権があるものの相続欠格事由(民法891条)に当てはまる場合は相続権を失わせる制度のことです。
下記の事由に該当する場合は、相続欠格となり遺産を相続することができません。
推定相続人の廃除などは不要で、相続欠格事由に該当すると相続権を失います。
- ・故意に被相続人や他の相続人を死亡または死亡させようとした
- ・被相続人が殺害されたことを知っていたのに告発や告訴をしなかった
- ・詐欺や脅迫によって被相続人の遺言を取り消し・変更を妨げた
- ・被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した
- ・故人の兄弟と共有の不動産だったか
親の借金などを相続したくない場合の対策
親が多額の借金を抱えていることを知っている場合は、生前に相続放棄をしておきたいと思われるかと思いますが、この場合でも生前に相続放棄することはできません。
相続放棄は親が亡くなってからするしかありませんが、生前にできる対策としては親と話し合いながら債務整理を進めることです。
大阪相続相談所を運営しているグリーン司法書士法人では、債務整理の経験も豊富なので、ぜひ一度無料相談でご相談ください。
専門家に相談し、生前から債務整理を進めることで、相続人にプラスの財産を残せる可能性がでてきます。
しかし、結局は親の借金なので、親が債務整理に前向きでない場合は円滑に進めることができません。
親の借金は子供に相続されることを話し、親と話し合いながら対応していく必要があります。
遺言書の内容は債権者に関係ない
たとえば、相続人が長男と次男の2人で、遺言書に「借金を含めて財産は全て長男に相続させる。次男に借金を相続させない。」と記載したとしても、次男は借金の請求から逃れることはできません。
債権者が遺言書の内容を承諾すれば問題ないのですが、債権者は遺言書の内容に拘束されないので、遺言書の内容に関係なく長男と次男に半分ずつ請求することが可能なのです。
次男のところに債権者が来た時に、「遺言書に次男に借金を相続させないと書いてある」と主張しても認められないのでご注意ください。
借金の相続については、下記ページでそのようなケースがあるのか、対応方法などを説明しております。
借金を相続したら相続放棄を行う方法
最初に書かせていただいた通り、相続放棄は家庭裁判所に申し立てをします。
生前に相続放棄はできませんが、被相続人が亡くなった後は相続放棄が可能なので、相続放棄を希望されている場合は期限内に手続きを行いましょう。
相続放棄手続きは以下の流れになります。
- ① 相続放棄にかかる費用を準備
- ② 相続放棄の必要書類を用意
- ③ 家庭裁判所に申述書などを提出して相続放棄を申し立て
- ④ 照会書が届くので、必要事項を記入して返送
- ⑤ 相続放棄が許可されれば、相続放棄申述受理通知書が届く
相続放棄には「自分が相続人になったと分かったときから3ヶ月」と期限が決められているので、相続放棄を希望する場合は早めに手続きを行いましょう。
まとめ
家庭裁判所が生前の相続放棄を受け付けていないので、生前に相続放棄はできませんが、生前にできることを行い、相続の発生に備えておきましょう。
生前に行うことができる対策は「遺言書を作成する」「生前贈与をする」「家族信託をする」「遺留分放棄をしてもらう」「推定相続人の廃除」があり、難易度と効果がそれぞれ違うので、できる範囲で高効果な対策を行いましょう。
また、親と話し合い債務整理を生前に行うこともおすすめなので専門家にご相談ください。
相続だけでなく債務整理の経験も豊富なので、まずは無料相談でご相談ください。
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一般の方向けのセミナーの講師や、司法書士や税理士等専門家向けのセミナー講師も多数手がける。オーダーメイドの家族信託を使った生前対策や、不動産・法人を活用した生前対策が得意である。
- 【保有資格】司法書士/行政書士/家族信託専門士/M&Aシニアエキスパート
- 【関連書籍】「世界一やさしい家族信託」 著者/「はじめての相続」 監修
- 全国司法書士法人連絡協議会 理事